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第4話 代わりが来ただけ

Penulis: marimo
last update Tanggal publikasi: 2026-06-06 23:05:32

朝、キッチンから聞こえてきたのは、見知らぬ鼻歌だった。

ダイニングに入ると、相沢玲奈がエプロン姿で立っていた。

手際よくフライパンを振り、まるで何年もここに住んでいるかのように。

「おはようございます」

私に向けられた笑顔は、丁寧で、冷たい。

「俊哉さん、朝はトースト派なんですよね?ひかるさん、知ってました?」

私は答えられなかった。

そんなこと、聞かれたこともなかったから。

俊哉は新聞を読みながら、何事もなかったように言う。

「ひかる、邪魔」

「そこ立ってると暗い」

暗い。

存在そのものが、邪魔だと言われているようだった。

テーブルの上には、私の席はなかった。

「今日から、生活費は管理し直す。お前、無駄遣い多いから」

「私、何も――」

言いかけた瞬間、玲奈が口を挟む。

「でも、家政婦って、時間余りますよね? 何してるんですか? 一日中」

くすくすと笑いながら。

「もしかして、愛されてるつもりだったとか?」

俊哉が笑った。

「それ、面白いな」

笑い声が重なる。

私だけが、笑っていない。

「なあ、ひかる。お前って、何の取り柄もないよな」

その言葉が、胸に深く刺さった。

「顔も普通以下。愛嬌もなし」

「金も稼げない」

「だからさ、代わりが来ただけだ」

その言葉で、心の中の何かがまた一つ壊れた。

その日の午後、私はクレジットカードが使えないことを知った。

スマートフォンの画面に表示された、無機質なエラー。

「口座、止めたから」

「どうして……?」

「家政婦に逃げられたら困るだろ?」

俊哉は、そう言って笑った。

ひかるの背中に、冷たいものが走る。

逃げる――

俊哉は、自分が逃げることを恐れている。

だが、そんな考えすら、持つ資格がないと言われているようだった。

結局、私は、俊哉に愛されていたわけではなかったようだ。

今さらにして、気づいてしまった。

考えてみたら、俊哉と出会って四年。

色々なことがあったが、俊哉の態度が、目に見えて酷くなったのは、俊哉の経営する、《Kurosaki Creative Works》という、広告制作会社が軌道に乗ってからだった。

軌道に乗る前は、ひかるも事務員として、このKurosaki Creative Worksで働いていた。そこで愛を育み、俊哉からプロポーズされた。

しかし、軌道に乗り、忙しくなり、俊哉がこの大きな家を購入してから、「ひかるには家を守って欲しい」と言われ、家事一切を任された。

買い物に使えるお金は、俊哉が決めた額を、カードに入金してくれるだけ。

「会社が軌道に乗ったといっても、まだ不安定だから、結婚はもう少し先で」と言ったきり、もうすぐ二年が経とうとしていた。

そして、俊哉の朝帰りが始まった。

ひかるは、夕飯を作り、自分も食べずに待っていたが、結局、朝になっても変えって来ない日が続いた。

その頃には、俊哉の機嫌次第で、殴られたり蹴られたりすることも多くなり、ひかるの心は、だんだん、疲弊していったのだった。

ひかるはもう、俊哉に愛されている自信がなくなっていた。

そして、相沢玲奈を連れて、俊哉は平気な顏でこの家に帰ってきたのだった。

夜。

二人の笑い声が、寝室から聞こえてくる。

私は布団の中で、耳を塞いだ。

――泣くな。

――まだ、終わりじゃない。

このまま、ここで壊れるわけにはいかない。

ひかるは目を閉じる。

今は何もできない。

お金もない。

仕事もない。

頼れる人もいない。

それでも。

―――いつか……

―――必ず

この屈辱を忘れない。

そう心の中で誓った。

まだ、それが復讐になるのか、再出発になるのか。

ひかる自身にも分からなかった。

胸の奥で、小さく、でも確かに、何かが芽生え始めていた。

いつか。

必ず。

この屈辱を、忘れない。

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